「今の職場で評価されていない自分は、どこへ行っても通用しないのではないか……」そんな不安から、転職の一歩を踏み出すことを躊躇してはいませんか?
私たちはつい、「評価が低い=自分の能力不足」と直結させて考えがちです。しかし、本来の強みを発揮していきいきと働くことができるかは、個人のスキル以上に、置かれた「環境」との相性に大きく左右されます。
もしあなたが今、自信のなさを感じているのなら、それは本当にあなたの実力のせいなのでしょうか。
数多くのキャリア構築を支えてきたキャリアコーチの牧園和修さんに、自分の強みを活かせる転職を実現するためのヒントを全3回にわたって伺う本連載。最終回では、「評価の読み解き方」と「自分を活かせる場所の見つけ方」についてお聞きしました。
| 牧園 和修(まきぞの かずのぶ) キャリアコーチ 大学時代に学生向け就活支援団体を設立。新卒で入社した大手通信会社では、SEや新規事業開発に携わる傍ら、リクルーターとして7年間採用に従事。その後、人事サービス会社にて事業部長を務め、約10年間にわたり毎年200〜300名の書類選考や面接を担当した。 現在は、豊富な採用実務とマネジメント経験を活かし、キャリアコーチとして活動。一人ひとりの「強み・価値観・可能性」を言語化し、心から納得感を持てるキャリア設計を伴走支援している。 |
「自分はダメだ」は思い込み。評価されない背景にある「環境とのズレ」
—現職での評価が低いことが、転職活動に踏み出す際のブレーキになっている方も多いのでしょうか?
本当に多いですね。上司との面談などで良い評価が得られないと、「自分はどこへ行っても通用しないのではないか」と思い詰めてしまう。ただ、相談者のお話を深く掘り下げていくと、実は能力の問題ではなく、「環境と自己のスタイルの不一致」に過ぎないケースが多々あります。
ある方は、上司から厳しく指摘を受け続けて、すっかり自信を失っていました。しかし、その原因を紐解くと、上司は「結論から話す」という端的なやり取りを好むのに対し、本人は「対話や共感」を大切にするタイプだった。ただ、それだけの違いでした。
でも、ご本人の中ではもう「自分はできひん」という無力感が勝ってしまっていて、「環境を変えれば活躍できるかもしれない」とは思えなくなっている。それが、転職への一歩を踏み出すのを難しくさせていました。
—その方は、「自分はダメだ」という思い込みをどうやって手放せたのでしょうか。
「評価されない=能力がない」ではなく「スタイルが合っていないだけ」だという構造を、まず一緒に整理したんです。
その方の場合、評価されない原因がコミュニケーションスタイルの違いだったとわかったことで、自信を取り戻すことができました。さらに、状況を整理したことで「自分の強みは共感力なんだ」と資質を認識でき、それを活かせる環境を自分で選べるようになったんです。

あなたの資質が「強み」として評価される場所
―本人の能力不足は思い込みであって、多くの場合「スタイルの違い」なのですね。では、自分の資質を前向きに捉えるには、どうすればいいのでしょうか。
単純に「(元の職場は)本来の強みを活かせる環境ではなかった」と、肩の力を抜いて考えることが大切です。
たとえば、先ほどの「共感的なコミュニケーションスタイル」は、看護や保育の現場など、相手に寄り添うことが最優先される業界では不可欠な資質です。もし、子どもが悩んで相談に来たときに、「悩みは何? 結論は?」なんて問い詰めてしまったら、信頼関係を築くことはできませんよね(笑)
最近では「結論から話す」が世の中の正解のように言われがちですが、ビジネス書で繰り返し語られるうちに常識として定着したスタイルにすぎません。一部の常識と自分のタイプがズレているだけで「自分はダメだ」と思い込んでしまうのは、非常にもったいないことです。
―自分を置く「環境」が重要だということですね。
はい。人が本来持っている強みを発揮できるかどうかは、環境要因が極めて大きいと思っています。
わかりやすい例としてお話ししたいのが、明治維新の精神的指導者として知られる吉田松陰が開いた「松下村塾」です。小さな村の塾でしたが、後の総理大臣を2名、大臣を5名も輩出しています。これは、吉田松陰が「日本を背負うのは君たちだ」と門下生全員の可能性を信じ抜いたからこそ、彼らの才能が開花したのだと思うんです。
―周囲の期待が本人の力を引き出す、ということですか。
まさにそうです。もうひとつ例として、アメリカの小学校で行われた有名な実験があるんです。
研究者が、クラス内でランダムに生徒を選び、「先生、この子たちは今後伸びますよ」と教員に伝えたんです。実はなんの根拠もない。でも、それを聞いた教員が期待を持って特定の生徒に接するようになると、実際にその子たちの成績は上がっていったんです。
この現象は、心理学においては「ピグマリオン効果」として知られています。人は周囲から期待されると、それに応えるように力を発揮するんです。逆に、期待されない環境では、本来の力が出せなくなってしまう。だからこそ、自分の強みを認めてもらえる環境に身を置くことが大切なんです。
残るか、去るか。転職の一歩を踏み出すための判断基準
―実際に転職すべきかどうか迷っている方は、何から始めればいいのでしょうか?
まずは転職を考え始めた背景にある、“不満の正体”を整理するところからです。不満の原因が「特定の人間関係や環境」にあるのか、「仕事の性質そのもの」にあるのかを切り分けて考えます。
たとえば、介護職の方が「直接感謝される機会が少なくて辛い」という悩みをもっていたとしましょう。この方は「人と接すること」で、高齢者と直接コミュニケーションをとり、感謝されることで力を発揮するタイプ。でも、認知症ケアの現場では気持ちがうまく伝わりにくい場面も多いそうで、その強みが活かしきれていなかったんですね。つまり、介護という仕事ではなく、関わる相手を変えれば解決する問題だったんです。
―環境の問題であれば、どんな人にも強みを活かせる職場は見つかりそうですね。
そうなんです。仮に、同じ会社内に自立度の高い高齢者向けの施設があれば、入居者との相互のコミュニケーションが仕事に含まれるので、強みを活かせますよね。もし会社内にそういった環境がなくても、自分の強みを知ったうえで転職することで、活かせる場所は見つけられる。
こうやって整理していくと、「転職しなくても解決できること」と「今の組織ではどうしても解決できないこと」が見えてくる。後者が明確になったときに、迷いのない転職の一歩が踏み出せるはずです。
納得感のあるキャリアを築く。その選択肢としての「転職」

—納得感のあるキャリアを築くために、牧園さんはどのような状態をゴールに据えて支援されているのでしょうか?
ゴールは、相談者の方が「この道でやっていくんだ」と自分で納得して働ける状態ですね。
今の環境で上司との関わり方を変えてみるのか、社内で別のポジションを探るのか、それとも転職で環境そのものを変えるのか。あらゆる可能性を一緒に考え抜いた上で、ご本人が納得できるキャリアを設計することを目指しています。
何より大切なことは、自分の強みを最大限に活かせる場所を見つけ、「ここで間違いなかった」と思える環境で、イキイキと働くことだと思います。納得して選んだ新しい環境で、相談者の方が楽しそうに活躍している報告をいただける瞬間が、私にとっての一番のやりがいですね。
今の環境で評価されていないと感じている方は、まず「自分がダメなんだ」という思い込みを手放してみてほしいんです。あなたの強みは、それを活かせる場所に身を置いて初めて輝きます。まずは自分の強みを知り、それを活かせる環境を探してみてください。その一歩が、納得感のあるキャリアの始まりになるはずです。
第1回記事はこちら▶︎「1,000人以上の書類を見たキャリアコーチが教える、「本来の強み」の見つけ方」
第2回記事はこちら▶︎「キャリアコーチ直伝、自分らしく働ける最高の一社と出会う転職活動の進め方」
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